「文化のフックが若者を救う」

今年度は5月から7月まで3回連続で子ども見守りサポーター養成講座を開催します

5月20日に開かれた1回目の講師は神奈川県立田奈高校の図書室で「ぴっかりカフェ」を開くNPO法人パノラマ代表の石井正宏さんです。
赤いボーダーTシャツに帽子とジーパンの親しみやすいスタイルで登場した石井さんは、高校生の現状と支援の在り方を熱く語ってくださいました。いくつのもキーワード共に、子ども見守りサポーターとして大事にしたいことをお話いただきました。

目次
・ぴっかりカフェの概要 
・就労と福祉的支援の間で行き場のない若者の現状
・予防支援が効果的
・図書室カフェで文化のフックを
・3rd placeでの役割のシャッフル
・3本の矢
・ソーシャルワークにつなげる

ぴっかりカフェの概要

 講師の石井さんはNPOで10年若者支援や自立塾を運営、高校での相談室を図書室に移して「ぴっかりカフェ」が始まりました。現在は毎週木曜日のお昼休みと放課後に、神奈川県立田奈高校図書室でおやつや飲み物、手作りのスープなどを約10人のボランティアと準備しカフェを開いています。利用者は田奈高校生とOBで毎回200人程。思い思いにおやつを食べた後は、おしゃべりしたり、ギターを弾いたり、ボードゲームを大人と一緒に楽しんだり、と自由に過ごしています。図書館司書の先生も運営者の一人。地域の大人がボランティアとして複数参加し、家庭でも、学校でも、地域でもない、2.5番目の場所の図書室で若者支援を続けて3年になります。

講師の石井正宏さん

就労と福祉的支援の間で行き場のない若者の現状

 家庭環境が複雑で、子どもの頃から自分で選択をしてきていない、またチャレンジした経験がない子どもたち。そんな育ち方をした子ども達は将来に希望がもてず、高校を卒業しても進路がきまらない、就職しても仕事が長続きしないといった状況になりがちです。
 高校を卒業してしまうと、相談機関に行くこともできず年月が過ぎ、就職することもできず、かといって福祉の支援も受けられないなど困難な状況に置かれてしまい、孤立することも。一度困難な状況に置かれた若者が、適切な支援に自力でたどり着くことは難しいという現実があります。
 そんな、支援を受けることも就労をすることもできない若者が、そのまま放置されると高齢者ひきこもりになったり、時には反社会的行動を起こすことが懸念されます。この状況を改善するために、また若者を困難な状況に孤立させないために、高校を卒業するまでの間に必要な支援をしながら、卒業後もつながり続けることが大切なのです。
 高校生の間に多様な大人に出会うこと、チャレンジする機会をつくること、そして多くの視点で生徒の抱えている問題を早期発見し、支援を始めることが求められています。一人一人によりそい、卒業するまでに適切な支援することもぴっかりカフェで目指していることです。

予防型支援が効果的

 困ってからの支援はたとえて言うなら雨漏りする家だと話す石井さん。バケツを置いて雨漏りをしのぐ一時的な対処ではなく、雨漏りの穴自体をふさぐ予防型支援が必要なのです。困ってからの支援は、解決に時間がかかること、そして支援される側の精神的な負担も大きい割に成果が出にくいことから、予防的支援が求められています。変容性の高い高校生のうちに支援することが重要なのです。
 高校生は漠然とした不安を持っています。その潜在的な不安の固まりは何か・・・高校生は自分独りでその不安を言葉にすることは難しく認識することも簡単ではありません。カフェのような交流相談(潜在的な課題に対応)の中で明確な課題に対してチャンクダウン(=細分化すること)して、大きな不安を小さな心配に仕分けて言葉にすることで次につながっていきます。これは、テストの点で生徒を判断する教師には解決できない課題の発見であり、地域の人、学校外の人だからこそできることです。

 どうしようもない状態にまでなってから支援されることは、実は当人の尊厳を失ってしまいかねない危険をはらんでいると石井さんは言います。そうなると回復するのにもとても時間がかかる。なので高校生自身が、悩んでいたことから具体的な課題が見えてきたら、それをひとつずつ適切に解決していく予防型支援が必要なのです。
 さらにこれからは、高校に入る前の入学前支援も必要で、効果的ではないかと石井さんは提案していました。入学前から生徒の様子を知り、その情報からクラス編成や担任マッチングを行うことで、高校中退はだいぶ防げるのではないかとも。

図書室カフェで文化のフックを

人間の持っている資本は、文化的資本・経済的資本・社会的資本の3つだと言われています。

経済資本:自由にできる経済的な資源(金銭、資産、財産)
社会資本:知り合いなど持続的なネットワークによる実際的かつ潜在的な資源
文化資本高い社会的ステータスを達成する上で有利となるような教育

 ぴっかりカフェにくる学生の中にはそのどれもを持てない子どもたちもいます。
カフェでは「文化のフック」を増やしていくことを大切にしています。それは、文化のフックを増やすことで「社会的資本」に引っ掛かり、社会で生きていくための資本が増えていくことにつながるからです。
 そのために、図書室で「文化のシャワーを浴びる」ことのできる機会をつくり、多様な大人に出会うことで様々な生き方のモデル知り「文化のフックをつくる」機会を提供しています。それがいずれ人とのつながりを作り、就労、そして人間的な尊厳を育てることにつながっていきます。

3rd placeでの役割のシャッフルを

 家庭でもない、学校でもない地域の場「3rd place」は、今までにあげたように、多様な大人と出会い、文化のフックを増やすためにも必要な場所です。図書館は地域にある3rd placeの一歩手前の2.5 placeと考えます。2.5 plaeがあることで、卒業生や地域住人が学校に入りやすくなります。
 生徒は地域に出ていくのが苦手です。だからこそ生徒が足を運びやすい校内の図書室にカフェをつくったのです。学校の先生は何年かすると移動してしまいます、しかし地域に3rd placeがあれば、卒業した後でも、就職して離職しても訪ねていけるので、つながり続けることができるのです。
 もう一つ、3rd placeの良さがあります。それは役割のシャッフルがあることです。先生と生徒、親と子、といった日常の関係性が、場所がかわることで変化します。教えられている立場の人が教える、教えている人が教えられる、いつもと違う役割を経験することは人間としての価値を認められ成長するチャンスにつながります。
 生きているだけでまたやり直せるのです。3rd placeを地域にどうもつか、それがとても大事になってきます。

3本目の矢

 同じ助言やアドバイスをうけることありますよね。最初に親に言われ、次に先生に言われ、そして最後に、学校と家庭以外の地域にある居場所や3rd placeなどで言われることは、意外に大切なきっかけになりうるといいます。学校の先生や親の矢(助言やアドバイス)は本人の心には届きにくいものです。そこで、地域に3本目の矢をいかに用意できるか、この3本目の矢である親でも先生でもない大人が必要です。3本目の矢になる大人との出会いや関係は、子ども達にとって人生の登場人物が増えること。親以外の多様な大人の生き方や価値観を知るきっかけにもなり、子どもの社会的資本がふえることにつながります。
 うまく言えなくても専門知識がなくても大丈夫、3本目の矢を子ども達に届けることのできる、そんな大人が地域には必要です。

ソーシャルワークにつなげる

子ども達の居場所を運営したいと思っても、専門家でもない自分になにができるのだろうか?そう考えることもあるでしょう。しかし、石井さんはフリーだからこそ、専門家ではないからこそできることがあると言います。
 子ども達のそばにいて、ありのままを受け止めることで、子どもとの間に信頼の貯金がたまります。子どもの話をゆっくる聞いてくれる相手は意外といないのです。先生方は忙しいので、子ども達が相談できる時ばかりではないでしょう。暇そうにしているフリーの大人が、子ども達の心の扉を開かせるのです。
 そして、専門家ではない普通の地域の人ができることは、気安く子ども達としゃべり、必要なソーシャルワークにつなげることです。普通の子ども達はいきなり専門家に相談はできません。専門家は扉の向こうで構えて待っているもの、そこに子ども達をつなげるのが、専門家ではない私たちの役割です。
フリーの立場はソーシャルワークにつなげる「ハブ」の役割を担っていると言えるでしょう。

寄せられた質問

Q:家では会話のない、文化のフックの少ないと思われる高校生の息子とのやりとりに困っている。
A:子どもはいろんな顔を持っている。家で見せる姿は子どものほんの一部。子どものことを信じてあげてほしい。

Q:周知はどのようにしているのか
A:地域にポスターを張ってもらったり、高校を応援してくれる人の循環を作るために、つながりのある人に声をかける。その他、養成講座、SNS発信などでも周知する。まずは関心を持ってもらうことが大事。

参加者アンケートより

・子ども達に文化資本のシャワーを浴びる場所が必要なことが、とても良くわかった。多様な大人の考え方、生き方、いろんなものさしとの出会いの場があると、子ども達は親+先生+もうひとり(~多数)の大人から、多くのものを得るのだと思う。そんな場を作っていきたい。

・卒業を区切りとしない支援のあり方が良いと思ったし、子の親としてありがたい。誰かの3番目の矢になれるといいなと思う。仕事場でも、「あそびっこ基地」でも。とてお興味深い講座でした。

・問題集中校で勤務していた経験があり、当時にこの視点を持っていたら子ども達に違う未来が開かれたかもしれないと思っています。退学、妊娠、貧困、多くの問題に対峙するには、やはり高校生は幼すぎます。第3の大人になるを心に留めておきます。

・無資格でもいいんだと思った。ハブになろうと前向きになれた。親・大人に見えているのは一部だということ、子どもを決めつけずじっくり話を聞こうと思った。信頼しようと思った。

次回以降子ども見守りサポーター養成講座

第2回6月25日(月)児童養護施設 はぐくみの杜君津視察 
第3回7月9日(月)講演会 子ども食堂でできること~居場所を維持する仕組み~
           こがねはら子ども食堂 代表 高橋亮さん

参考資料
NPO法人パノラマ
NPO法人パノラマFacebookページ